Q 中学受験で疲れ切って,その後学力が伸びなくなってしまう例をよく聞きます。そうならないためにはどうしたらいいでしょうか。
A これは件数の多いご質問なので,独立した記事にしました。「中学受験で燃え尽きないために」をご参照ください。
Q 小6になりました。塾では早くも実力演習に入っており,単元も難易度もばらばらで,予習も追いつかず,成績が伸び悩んでいます。塾の勉強を切って,基本問題に当たるべきでしょうか。
A すべての教材をこなせない場合には,当然選別する必要がありますが,その前に,「並べ替える」ことができないか,考えてみるのが重要です。
雑多な問題を次から次へとばらばらに勉強しても,頭の中で線がつながりません。雑多の度合いにもよりますが,あまりにばらばらな勉強をしていると,かえって成績は低下してしまいます。そこで,一つの問題を勉強したら,類題や同一単元の問題をセットで勉強する必要があります。そのために行うのが,教材の「並べ替え」です。
塾の教材が一定していなくても,3ヶ月分ぐらいの内容を単元別に並べ替え,類題を集めることができれば,まとめて学習できます。ただしこれはけっこう繁雑な作業なので,家庭教師の先生の助けが必要になります。もし,塾の教材が全体として完結性を備えているなら,そのカリキュラムを生かすことができ,有効な方法です。しかし常に並べ替えが可能という保証はありません。実際にやってみると,分野が著しく偏っていたり,教材の内容が収拾のつかないほどばらばらだったりすることもあります。こういうときは塾の教材を切るしかありません。そして,腕のいい家庭教師の力を借りて自分なりの計画を立てる必要があります。
単元別の学習はきわめて重要です。順序よく勉強しておけば,あとでもう一度その教程に沿って復習できます。一方ランダム演習では,解けない問題があったときに,
○ 本当はどの知識が必要だったのか?
○ どのような勉強をすればその問題が解けるようになるのか?
○ 他にまだ似たような問題で解けないものがあるのではないか?
など,様々な不安が出てきます。このような事態を避けるためには,「網羅性」と「反復練習」が是非とも必要です。一刻も早く計画的なカリキュラムを作り,順序よく知識を吸収しましょう。もっとも,本来はそういう体系的なカリキュラムを用意することが塾の役割でなければならないのですが……。特に社会科などは,いくら問題ばかりやっても,それでカバーできる知識はきわめて限られたものです。やはり参考書で直接知識を吸収する以外にありません。
Q よく「努力と才能」といいますが,才能のない子でも頑張れば伸びるのでしょうか。
A 無理をして足を引っ張らない限り必ず伸びます。勉強では,「努力する」「頑張る」というイメージをもった時点で敗北する危険がありますから注意しましょう。勉強において「頑張らせる」というのは,苦闘をさせることではなく,実は,できる限り自然かつ摩擦なく勉強を進めることができるように環境を整えてやることを意味します。
実際には,次のような点に留意するとよいのではないでしょうか。
(1) 発達段階
学力が急激に伸びるのはだいたい小5から高3までの間のうち2年間ぐらいです。その時期が中学受験と重なれば有利になりますが,遅いほうにずれることも多いですから無理しないようにしましょう。そして伸びる時期が来たら重点的に支援してあげればいいのです。
(2) 勉強の習慣
これは重要です。低学年のうちから「勉強は当然」「知ることは楽しい」「ゲーム感覚で覚える」という空気の中で,勉強の習慣を無理なく身につけた子は抵抗なく受験勉強に向かうことができます。逆に遊びすぎた場合や無理があった場合,あるいは「勉強は苦闘である」というイメージを持ってしまった場合は,勉強嫌いになって受験期に拒否反応を示すことがあります。
小学校低学年から塾に行かせる親御さんの動機は,学力どうこう以前に,勉強の習慣を自然に身につけさせることにあります。
以上の2点をクリアすれば,順調に実力は伸びていきます。それが傍目には「才能」と映るのではないでしょうか。
Q 小学校への越境入学はどんなものでしょうか。
A 有名中学に多くが進学する小学校にいくと有利なのではないかと考える人も多いようです。確かに環境の点では,周囲の子がよく勉強するというのはよいかもしれません。ただし,そういう小学校は,教育内容自体が優れているわけではありません。進学状況がよいのは住宅街の立地の問題です。また,周囲が優秀な子ばかりだと,勉強してもあまり目立たず,子供によってはやる気がなくなってしまう場合が少なくありません。
従って,普通のレベルの小学校に行って,余裕でトップクラスになるのも,精神衛生上よいかもしれません。そういう意味では,越境がよいとは必ずしもいえません。地元の小学校が余程荒れているのでない限りは,それほど越境にこだわる必要はないのではないでしょうか。
さて,仮に,それでも越境という手段を用いるとします。その場合には,小学校の学力水準よりも,通塾の便宜を考えたほうがよいと思われます。
現時点では,やはり塾を抜きにした中学受験はほとんど考えられません。そして中学受験での最大の負担は,なんと言っても通塾の時間です。受験は勉強量で勝負がつく部分が少なくありません。家庭学習時間を確保し,体力を有効に使うために有名塾に近い場所や,いろいろな塾に行くのに便利な都心部の駅周辺を検討するのも手です。
なお,最近では,住民票だけ移して遠い自宅から通う,という方法は,役所のチェックが厳しいので難しいかと思います。越境するなら,いい場所を探して本当に引っ越してしまいましょう。
Q 現在小5です。親がつきっきりでないと勉強しません。こんな状態で大丈夫でしょうか。
A このようなケースは想像以上に不利な状況と考えられます。
親御さんや家庭教師の先生がついていないと勉強できないようでは,小6の夏までに,勉強量や学習進度に致命的な遅れが生じていまいます。以下,その原因と対策について記します。
(1) 原因について
中学受験は早熟な子の争いです。有名中学に受かる子の大部分は,状況把握や計画性において,中学3年生以上に冷静な判断をすることができます。「いまこれをやらなければ入試に落ちる」と判断し,合格から逆算して「彼らにとっては当然の」努力をするわけです。
一般の小学生はこうはいきません。合格云々の前に,まず一休み,まずテレビ,まず雑誌,まず漫画,あるいは台所でいつまでも話していてぜんぜん勉強にとりかからない……というのが普通です。ちなみに極端な場合,高校生になってもこういう状況のことがあります。「親といつまでも屁理屈問答を続けていっこうに勉強しない」ケースというのは,中学受験に限らず,かなりあるようです。勉強以外の楽しみをたくさん知ってしまうと,こうなることは避けがたいと思われます。
簡単には,「楽をしたい」というごく自然な欲求の前に敗北しているので,その時点で合否は見えているといえます。上にも書きましたが,中学受験では勉強についての主たるイメージが「苦しいもの」になってしまった時点で敗北している可能性があります。
無理をして早熟な子のように積極的な勉強をさせようとしても,最悪の場合,ノイローゼになったりします。これで莫大な数の小学生の将来が潰されているのです。従って,まずは,しかるべき発達段階に至るまでは無理をしない,というのが原則です。
(2) 対策について
では,無理をしない範囲でどのような対策が考えられるでしょうか。
基本は,私立中学のよさを延々と繰り返しアピールすることです。とはいえ,なかなか小学生には理解できないのですが,ともかく繰り返し語ることによって,「じゃあ勉強しなきゃ」と思い立つ瞬間を多く積み重ねることが重要です。
次に,教え方のおそろしく上手な家庭教師に依頼することです。
普通,家庭教師は勉強の内容を教えるだけで,「何がおもしろいか」「これができるとどのくらい点が取れるようになるか」「今やっているタイプの問題がどの中学でどのくらい出題されているか」といった情報を伝えることができないでいます。このような付属的な情報は,想像以上に生徒のやる気をかきたてる効果があります。
小学生の行動原理は,「成功するならやる」「失敗するならやらない」ということに尽きます。彼らは正直なので,場合によっては大人よりも計算ずくで物事に当たろうとします。
そこで,「この問題が解けると確実に点が取れる」ということを繰り返し説得する必要が生じます。ただ繰り返すだけでは不十分で,実際に特定中学の過去問集を開いて,「ね,出てるでしょ」といって納得させなければなりません。
このようなことも含めて,「自分で勉強しない子をやる気にさせる」には,相当に専門的・職人芸的な技術が必要です。さらに,精神衛生上の負担をできる限りかけないようにしながら勉強させるには,ほとんど芸術的といってもよい技術が必要になります。
そのような技術をもった家庭教師の先生を探せるとよいのですが,見つからない場合には,次善の策として,ともかく教科指導力のある人に依頼するのがよいでしょう。つまり,
ア 難問を解く「必殺技」を知り尽くし,
イ 生徒が何をどこまでできるようになったかを把握し,
ウ 定着するまで定期的に解法を反復確認してくれる
ような先生です。このような教え方をすれば,勉強時間の不足分をかなり補うことができます。
(3) 今後の学習について
というわけで,自分で勉強できない生徒さんが中学受験をする場合,家庭教師は必須になります。
小5段階では基本事項の習得が重要ですので,家庭教師の先生はまじめで,かつできる限り時給を安くできる学生さんでいいと思います。具体的には明治大あたりに求人を出すなどの方法が考えられます。最低限生徒さんと一緒になって雑談に走らないような人であればよいでしょう。私大の学生さんであれば夏休などが長いので,勉強を見てもらう時間を増やすなど,柔軟な対処が期待できます。
小6になってからは,上記のような実力のある先生に見てもらった方が安心です。受験学年の家庭教師は,厳重に人選をすべきです。
Q 私立一貫校に行くよりも,公立中学・高校と進んで通塾するほうが有利ということはありませんか。
A 実はその通りです。私立進学校の一部では,中学・高校と授業の進度が速く,大量の落ちこぼれを生産しながら驀進することがあります。こういうところでは,中間・期末試験でかなりの負担を強いられます。ひとたび遅れを出すと,定期試験で落第点を取らないようにと,学校の勉強に縛り付けられることになります。結局受験勉強まで手が回りません。
もちろん,進学だけが私立の魅力ではないのであり,校風も考慮すべきは当然です。が,ここではあえて受験勉強の効率という観点から見てみます。
たしかに高校の勉強も大学受験に役立つということはあります。しかし,もし難関大を受験されようとするなら,入試問題をご覧になるとわかるように,高校の教科書の内容や定期試験対策はその勉強のごくごく小さい一部でしかありません。
そのような微小な内容は,普通の進度で学習すれば高校3年までにちゃんと吸収できる人でも,中1からいきなり高校課程に入るようなやりかたをされれば,学力がまったく定着しないままその微小な内容に追いまくられることになりかねません。学校行事や部活動に伴う放課後の拘束が厳しい私立学校もあります。
一方公立では,高校の勉強の負担が皆無に等しい状況です。従って,自分で学習計画をきちんと立てて勉強しようとする人にとっては,自由な時間がある分,明らかに有利になります。
もちろん公立には欠点があります。公立では勉強することがタブーとなっていることが多いのです。放課後も早く帰りにくい雰囲気があります。ですから,周囲に流されていると全く勉強が進みません。が,周囲なんて無視して勉強すればいいのです。実際きちんと勉強して一流大学に行く人は一定数いるわけで,自覚が必要なだけです。
ということで,結局のところ,公立にしても私立にしても,学校の負担ができるだけ軽いところに行くのがよいのではないでしょうか。
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