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Q 北陸在住です。国立大学は関東圏で受験する予定ですが,併願私立はたとえば同志社など関西圏も受けてみたいと思います。どんなものでしょうか?

A 関西の大学に行った場合,東京本社の企業への就職活動がやや不便になります。もっとも全国展開している企業によっては関西枠を設けている場合もありますので,不便即不利というわけではありません。公務員や大阪本社の企業を考えているなら問題ありません。私大は純粋に就職のことだけ考えて選べばよいのです。

Q センターの理科は何を選んだらよいでしょうか?

A よく全国平均が問題になりますが,難関大学を受験する人にとっては高得点域でどこまで点が伸びるかが重要です。東大受験生ならどの科目も9割越えが目標と考えると,理科で90点程度では「失敗」の部類に入ります。そういう面では文系は地学がよいでしょう。理系は何でも構いません。生物はここ数年,もっとも満点がとりにくい科目と言われています。実際,全国トップクラスの東大文系受験生で「生物は得意」と称していた人でも,90点以上とれたケースは少数です。問題も本格的な実験解釈など,「正統に難しい」ので,対策にも手間がかかります。地学ならごく短期間で仕上がります。にもかかわらず文系で生物を選び,高3の1学期からこれに多大な時間を費やす人が多いのは驚きです。

Q 都立高校の学区制緩和で,都立の進学実績は復活するでしょうか?

A 結論から申し上げますと,都立上位校の復活はきわめて難しいと思われます。下位の都立には,同じく下位の私立から受験者が流れてくると思われます。しかしそれで進学実績が上がるとは思えません。

 まず,私立について考えてみます。よく,不景気になると私立を避ける受験生が増え,公立が復活するといわれますが,かつてのオイルショックなどの不況にもめげず,現在まで,大学・高校・中学・小学校・幼稚園のいずれにおいても名門私立が台頭してきました。最近私立高校の学費が払えずに退学するケースが増えているといった報道がありましたが,それで進学実績の高い名門私立が打撃を受けるとは考えにくいと思われます。

 次に学区制についてですが,これはもともと都立上位校の進学実績を叩き潰す形で施行されたものです。緩やかな競争の中で徐々に都立が淘汰されてきたのであればまだしも,意図的に潰されてしまったので,私立と比べて進学状況の差が恐ろしいまでに開いてしまいました。この差を埋めるのは容易なことではないでしょう。

 しかも都内には名門私立がひしめき合っています。これらの私立高校はいずれも特色ある教育を行い,予備校でも通用するような優秀な教員も少なくありません。それになにより,進学実績に関して競争意識を持っています。これに対し公務員である都立高校の教諭間には,私立高校の教員に匹敵するような競争原理が働くとは考えられません。公務員たるもの,決められたことだけやっていれば絶対にクビにはならないのであり,リスクを冒さないことが出世の要件なのです。

 かくして,都立が復活するには,非常に強力な政治的誘導が必要となるでしょう。そのことは都立関係者も認識していると見えて,現在の信じがたく強引な重点校キャンペーンが行われていますが,その成果は未知数です。人々は,恐ろしいまでに既成観念に弱いので,これからも当分の間,私立を選び続けるでしょう。

Q 数学は暗記だといわれますが,本当でしょうか。また,予備校の講習に行って板書を写すだけで,果たして効果はあるのでしょうか?

A このタイプのご質問は件数が多いので,独立した記事にしました。お手数ですがこちらをご覧ください。

Q 理工系学部では物理学科の偏差値が高いですが,なにか理由があるのでしょうか?

A このほかに,「東大で物理学科の進振りの点数が異様に高いのはなぜか」といったタイプのご質問をいくつかいただいております。

 物理学は大変魅力的な学問です。哲学的な感性と論理力,そして数学的な直観を駆使して世界を説明しようとする物理学は,「究極の自然科学」と呼べるかもしれません。しかしながら,そういうことをわかって志望している受験生は少数と思われます。現状では,物理学科の人気は多分に,情報不足と既成事実によるものと思われます。

  1. 上位受験生といえど,将来の就職や仕事について詳しい情報をもっている人は少なく,いきおい, 「点数の高い学科即将来有利」「高点数即無難」という発想で選んでしまうのではないでしょうか。
  2. また,「生物関係は暗記偏重で人海戦術」とか「化学は実験が多くて大変」とか,「理論はかっこいい」といったステレオタイプもあると思います。
  3. 中には高校時代から物理の専門書を読みあさっているような人もいますが,一般的にはこういうまともな興味を持てる人は少ないのではないでしょうか。
  4. 物理は流行によってドロップアウトすることがない点も強いです。応用化学,船舶などはかつてトップレベルの学科でしたがオイルショックでいったん底辺に落ちたことはよく知られています。最近では原子力工学がやられました。さらに近年生物系の凋落が始まっています。
  5. 元来物理は難しい科目です。全国的に受験生の理数型学力が低下する中で,東大をはじめとする難関大学の理系学部受験生は,物理のできる希少な存在となっています。英語や数学ができるのはあたりまえとして,さらに高校時代「物理が得意だった」という経験をもつ人がそのまま物理学科を希望するのかもしれません。

 最も大きいのはやはり「一貫して点数が高い」という点でしょうか。これまで点数の世界で生きてきた受験生は,学科の社会的評価よりも点数で判断することが多いように思われます。実際には,物理学科からの民間就職は工学系に比べて相当に厳しくなります。ただし,東大の物理学科に関しては大学教員のシェアをかなり確保しているようです。

 理論物理に惹かれていても,実際には物理学は実験の連続です。データをもって証明しないと論文になりません。その実験は,基礎的であるために,「超高圧」「超高電圧」「超低頻度現象」など,極端な環境での測定が主流になりますので,実験設備も大掛かりなものになります。そのため,学生の人数に比して設備が少なく,順番待ちとなることがあります。

 半導体やレーザー・超電導など話題性のある研究はどちらかというと,工学系学部にもっていかれてしまいます。こういう分野では理論的な事後的説明よりも,マテリアルの合成技術やパフォーマンスが先行するからです。さらに,実験設備は民間企業の電子・機械工学系の人が作ったものなので,計測を主眼とする実験データのうちめぼしいものは機器購入の時点で既に企業に取られていたりします。

 近年の理学系物理学科の研究の流れとしては,境界領域への進出があります。たとえば量子化学です。これは,有機化合物・金属触媒・酵素・生理活性物質などの分子軌道をコンピュータでシミュレートして機能を説明しようとするもので,端的に言えば,生物・化学系で普通に行われている分野へと進出しているといえます。

 なお,過激な言い方になりますが,日本の理工系学部から出てくる研究成果の多くは,企業で既に数十年以上前に行われ,闇へと葬られたデータだといっても過言ではありません。米国の大学が企業の研究をそのまま(研究者ごと)誘致しようとするのと対照的です。

 そんなわけで,学科選びの際にはその学科の院生レベルの人に情報をもらうのがよいと思われます。研究室を訪ねていってもいいと思います。理工系の研究室は暗く汚いことが多いので,カルチャーショックに陥らないよう念願します(笑)。

Q 筑波大学志望ですが,模試偏差値で75程度,ほとんどA判定で名前が載ることもしばしばなのに落ちてしまいました。原因として何が考えられるでしょうか?

A これも大変多いタイプのご質問です。

 まず,模擬試験ですが,これは予備校ごとに受験者のレベルに著しい差異がありますので,首都圏の国立大学を目指すなら,お受けになった模試のほかに,「駿台全国模試」のデータも確保されるのがよいと思われます。

 次に,筑波大学ですが,経験的に見て,このレベルの国立大学では,ほとんど英語によって合否を占うことが出来るのが普通です。英語では,国語や地歴論述で要求される文脈把握や日本語論述の力が総合的に試されるからです。不合格の原因がわからないという受験生の多くは,和訳・英作文など論述設問で失点しています。

 筑波の英語は,一橋・北大・阪大・お茶大などと並んで,レベルの高い問題が出ることがあり,相応の対策が必要になります。99年入試の下線部訳を例にとってみます。

  You're sitting at a bar --- or in a coffee shop or at a party and suddenly you feel lonely. You wonder, "What do all these people find to talk about that's so important?" Usually the answer is, Nothing.. Nothing that's so important. But people don't wait until they have something important to say in order to talk.

 問題集などでは次のようなタイプの訳が見かけられます。

(1)「ここにいる人たちは皆,話し合うそんなに大切なことがあるのだろうか」と思います。

(2)あなたは,「このすべての人は話すべきそれほど重要な何があるというのだろう」と疑問に思います。

(1)は疑問文「何を……だろう」の構造を見逃しています。

(2)は日本語として変です。

 以下に推奨する訳例を示します。

 〔訳例〕

 あなたが居酒屋で,あるいは喫茶店やパーティーで一人で座っているとき,ふと周囲から取り残されているような気分になったとします。そんなとき,「この人たちは,みんな,何をそんなに話し合うような大事なことがあるんだろう」と不思議に思うでしょう。その答えは普通,「何もない」です。それほど大事なことなんて何もないのです。でも,みんな,重要な話題ができてからようやく話しはじめる,なんてことはありません。

 文法構造を保存して,かつ日本語として適切な訳文を書くのはかなり難しいものです。

 もう一つの例です。「会話では,具体的な用件だけでなく,内容のないたわいのない会話も,人間関係を形成する上で重要」というのが文脈です。

  Such requests as "Skip the small talk," "Get to the point," or "Why don't you say what you mean?" may seem to be reasonable. But they are reasonable only if information is all that counts.

 問題集では,たとえば次のようになっています。

 「しかし,これらの要求は情報だけが重要だというときにだけ道理に合うのです。」

 この訳は日本語としては,とても拙いものです。まず,only if は「~のときだけ」ではなく「~の場合に限り~であるにすぎない」と訳すと筆者の主張をよく表し,かつ日本語として滑らかになることが多くあります。また,informationを「情報」とすると,本文で重要とされる「言外の情報」と区別がつかなくなります。そこで「情報内容」と訳したほうがいいでしょう。さらに,reasonableですが,通常日本語で「道理に合う」という表現を使うことはあまりありません。やはり実際に使われる日本語を書くのがよいでしょう。最後にtheyの訳ですが,入試の答案としては「要求」と訳すよりももうすこし詳しく直前の内容を引用するのがよいでしょう。

 〔推奨訳〕

 「余計な話は抜きで」「本題に入ってください」,あるいは「思っていることを率直に言えばいいじゃないですか」といったように相手に求めるのは,もっともなことと思われるかもしれません。しかしこのような,世間話を切り捨てろという態度は,情報内容にしか価値がないとする立場に立った場合に限り意味をなすにすぎません

 以上のような日本語の吟味は,国語や地理の答案を書く場合にも重要になります。国立大学の入試は記述形式なので,日本語が拙いと,どの科目も非常に苦戦することになります。従って,筑波大学レベルの入試対策としては,まず英語を通して日本語表現を磨く練習をするのが最良と思われます。

 そのためには,優れた日本語訳が出ている問題集(なかなかないのですが)を探すか,または一つの問題に対して複数の解答を比較検討するのがよいでしょう。

 なお,筑波の地理はできるだけ多く情報を盛り込むこと,国語は抜き出しをベースに気の利いたマイナーチェンジ(補充・単語の吟味)を施すのがコツです。

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