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Q 受験生は将来の進路よりも大学のネームバリューで受験校を決めているように思えます。それでいいのでしょうか?

A 実際問題として,将来の志望は大きく変動する可能性があります。その意味で,できるだけ可能性を広げておくために有名大学を選ぶというのは一理あると思います。将来の希望が確定している人にとっては大学名はあまり意味はないでしょう。目的に見合った大学が自動的に浮上するはずです。

 では,なぜ多くの人が具体的な進路をはっきりと決めずに入試に突入してしまうのでしょうか。

 そこには,「エリート労働」という考え方があります。すなわち,専門的な技術は現場労働者に任せ,「彼らを統括・管理する人も必要」という素朴な考え方です。そういう管理者にとって高度に専門的な知識は必要なく,「現場労働者が何をできるか」だけを把握して使いこなせればいいのです。このような「エリート労働者」は組織を管理する立場上,利益の多くを取ることができます。肉体労働よりも明らかに仕事は楽です。社会的地位も高いとされます。

 このような「労せずしてすべてに恵まれる」エリートを目指して受験生は試験に挑むのです。ただし,大企業でも倒産する昨今では,ひとたび組織を失えば,有名大学卒といえど,現場労働者よりもはるかに無能な存在であることに気付かされることもあるでしょう。

 道徳的判断はともかくとして,貴重な若い時期に抽象的な大学名を目指して抽象的な努力をする場合,犠牲にするものも多いということは認識すべきだと思います。

Q 東大の点数開示は,どんな意味があるでしょうか?

A 浪人時のいちおうの指針になります。点数の極端に低かった人は来年,安全圏を狙い,ボーダー付近の不合格者は次の年,再チャレンジすることになります。

 ただし,

(1) 公表される得点が科目間調整済みに見える

(2) 判定会議の結果や面接点なども折り込み済みかもしれない

(3) 論述部分の採点基準が不明

 といった状況下では,結局のところなぜ落ちたかわかりません。そういった限界を考慮して,ちょっと頼りない参考データとして利用するのがいいのでしょう。

Q 特に現在の仕事に不満があるわけではないのですが,会社を辞めて医師か薬剤師か理学療法士の資格をとる道もいいなと思います。これらの資格の将来性はどんなものでしょうか?

A 「サラリーマンよりも専門的な仕事のほうがやりがいがあるのではないか」という質問を含め,最近非常に多いタイプです。医学部については他のページにも記事がありますのでご覧ください。

 資格である以上は職がないということはないでしょうが,それでも最近は年々就職が厳しくなり,コネがないとメジャーな病院は難しくなりつつあります。また,専門的には違いないのですが,基本的には決められた単純作業をこなすことになります。

 医師は責任が重いだけでなく,適性も大事です。技術職なだけに,不器用な人はただちに病院内で烙印を押されます。あらゆる社会に序列は存在します。元来理系の実験系は,こまかいところに注意が行き届く人でなければつとまりません。

 職権の壁も厚く,私が知っている薬剤師や理学療法士の人はほとんど全員が医学部再受験を考えたことがあるといいます。また,医師の方も,一定の年齢に達すると,「監督官庁や大病院の要職を渡り歩く階層」に対していろいろ思うところがあるようです。ではそういうエリート医師が現状に生き甲斐を感じているかというと,やはり能力的な問題もあり(ペーパーエリートには開業してやっていけるような実務家は少ない),複雑なようです。

 サラリーマン社会と同様,俗界のどろどろした面もあるようです。

 さらに,万一合格が遅れるなどの場合,企業に戻ろうとしても,この就職難なので,非常に厳しい事態が想定されます。余程の資産がない限り,退職はリスクが高すぎます。そういうわけで,現在定職のある場合には,今の職場でできる限りのことをするのがよいと思われます。もし職場で資格を取らせてくれるような制度があれば利用する,という程度の方針でよいと思います。近年では,資格,ないしは再受験というものは,「儲ける手段」「キャリアアップ」と考えるよりも,むしろ失業対策と見たほうがよいでしょう。

 再受験者の多くは,表面的には理想とか夢を語っていても,実際には,現状の職場でこれ以上やっていけないような事態に陥りやむなく再受験しているというのが本当のところのようです。余程暇の有り余っている人でない限り,そのくらい切迫した理由がなければ競争に勝って合格するのは難しいでしょう。

 そういうわけで,失業など切迫した理由がない限り,再受験はおすすめできません。

Q 早慶では英語が大事といいますが,自分は英語が特に苦手です。なにか対策はありますか。また英単語はまとめて覚えたほうがいいのでしょうか?

A 英語が壁に当たるケースのほとんどは学習量の不足です。一般に,どの科目も学習時間と成績が比例する傾向はありますが,とくに英語は時間に依存します。私大対策なら,全勉強時間の70%から80%の時間を英語につぎ込むぐらいでないと壁は突破できません。

 英語に関しては,どこまで行っても完成するということはありえないと考えるのがよいでしょう。入試直前までひたすら努力する以外にありません。英語はそれほど手間のかかる科目なのです。他の科目が一応の頭打ちを見ても,英語だけは入試直前までじわじわと伸び続けます。実質的に私大入試はほとんど英語で決まるといわれるのもそのためです。

 英単語の学習ですが,基本的には

(1) 単語集でコンスタントに覚えながら,

(2) 重要語がぎっしり含まれている良質な長文問題で単語・熟語を拾う作業も行い,

(3) 定期的に必ず復習する

 ということに尽きます。単語集も長文演習もどちらも必要ですので,平行してとにかく学習を進めるのが重要です。

 ところで難関大学受験生の間で最も学力差が出るのが英語です。これは英語が難しい科目だからではなくて,一つには上にも書いたように量が多く「手間がかかる」からですが,もっと大きな理由があります。

 中学1年から塾に行っているような人がまず受講するのが英語です。高3のはじめの段階で,英語に関しては,本格的に勉強した人としない人の差が5年分あるわけです。これに対し,世界史などは大半の人が高校2年ぐらいから勉強するので,それほど学習時間の差がつきません。浪人生が世界史ばかり異様にできるのは,簡単に追いつくことができるからです。難関大向けの模試では,よく英数が現役優位,地歴が浪人優位といった結果が出ますが,これは,一年ぐらいでは英語で挽回するのが難しいことを意味します。

 難関大では英語は落とせません。一刻も早く勉強にとりかかりましょう。

Q 現在理工系学科にいます。脳の高度な機能に関する研究をしたいと思うのですが,医学部を再受験したほうがよいでしょうか?

A 脳に関する研究は,電子・情報・心理・生物・薬学など各方面で注目されていますので,医学部に絞る必然性は全くないものと思われます。よく医学部は動物実験がやりやすいと言われますが,実際に医学系の大学院や研究機関で研究している人には他学部出身者が多くいます。

 さらに,医学に関係あるテーマの多くは実は他の分野の専門が求められます。たとえば人工臓器なら精密機械・新素材など,脳の機能なら情報処理・心理学・数学などの素養があるほうが研究の展開上望ましいでしょう。脳を研究するうちに人工知能の方に興味が移ってしまうこともあり得ます。

 また,脳の組織について学べるのは医学部だけではありません。「心理学」と称していきなり解剖学や数学の授業が始まることもあります。他学部聴講の制度もあります。

 従って,研究を目指すなら,とりあえず現在の大学で4年まで行き,専門をしっかり勉強して,大学院で乗り換えるのが近道です。特に,現在旧帝大クラスの大学に在学中とのことですので,他大学や他学部を受け直す必要は全くないと思われます。3年生になるまでに,興味のある研究を行っている研究室を探しておくとよいでしょう。

 ともかく,研究に対する興味と目的が明確で一定の能力が伴っていれば,現在の大学教育システムは,再受験といった無駄なことはほとんど必要ないようにできています。医学部を再受験するのは基本的に資格試験や診療行為に必要だからです。また,医学部には内科学や外科学など医学部プロパーの研究があります。従って実際問題として,医師の資格を取ったら,診療にあまり結びつかない専門研究に専念することはほとんどあり得ません。

 院で他大学や他専攻に行く場合には,行き先の研究室を訪問して指導教官に挨拶しておくこと,及び,4年次の卒業研究の指導教官に早めに話をして推薦状を書いてもらうことが重要です。

Q 大学の社会的評価というのはどのようにして決まるのでしょうか?

A ここにいう「社会的評価」とは,おそらく「広く社会的に見た場合の漠然とした大衆的人気」のことだと思われますので,その方向で話を進めます。

 既に行きたい大学や専攻が決まっている人にとっては大学の評価など興味ないかもしれませんが,大学を就職予備校と考えている大多数の受験生や,入試をゲームととらえている人にとっては気になるところかもしれません。受験系の掲示板では大学のランク付けが花盛りです。

 大学の評価は分野別に行われるべきものなので,「全体的評価」なるものを考えてもあまり意味がない……はずなのですが,「全体的評価」の高い大学には各学部とも優秀な教員が集まるのも事実です。結局のところ,なにが大学の大衆的評価を決めるのでしょうか。

 「人気」「学歴像」は我々の主観の中にあるので議論するのが難しいのですが,現在では大学そのものの「全体的評価」ないしは「大衆的人気」といったものは,次の要因によって決まるものと考えています。

(1) 伝統的な知名度

(2) 司法試験合格者数

(3) 三菱系企業への就職実績と出世状況

 これらはいずれも差別化しやすく非常にわかりやすい指標です。よく,大学の評価は研究実績で決まるといいます。それが理想なのですが,その評価が実は最も難しくわかりにくいものです。余程ミーハーな研究実績を出さない限り,研究で社会的認知を得ることはないでしょう。

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