東京凰籃学院 中学受験の部屋

中学受験のリスクについて


B 中学受験「脱出」のカンどころ

 さて,中学受験で「燃え尽き」てしまわないためには,どうすればよいのでしょうか。

 「ケース・スタディ」で見た各段階で,実際には何が起こっていたのでしょうか。

1 調子のいい子

> 表面的に調子を合わせているだけで,塾の先生や親が見ていないところでは,消しゴムを粉砕して
> 遊んだり,漫画を読んだりと,およそ勉強とはかけ離れたことをやっています。

 実はこの時点で,中学受験そのものを検討しなければなりません。進んで勉強するようでなければ,有名中学進学はむしろ危険です。ただしこれは,「合格しない」ということではありません。愁訴Bまでで止まっていれば,家庭教師の力量にもよりますが,一定レベル以上の難関中学に合格させることは十分可能です。

 ではなぜ中学受験を考え直さなければならないのでしょうか。

 それは,中学に入ってからほぼ確実にドロップアウトするからです。場合によっては留年すれすれまで転落することもあります。周囲の人が「それなり」に勉強するからです。有名中学の生徒の最も顕著な特徴は,才能があることではなくて,「それなりに勉強してしまう」ことにあります。だからいとも簡単に学年最下位近くになってしまうのです。別に順位なんかいいじゃないかと思われるかも知れませんが,いろいろな例から見て,これによる精神的な傷は相当のものであると思われます。とても大学受験に耐えられるものではありません。

 たとえば有名一貫校生が中学の3年間,学年最下位近くにいたとしましょう。この間に,まだ若い生徒さんの中で,自己正当化欲求が高まります。「勉強だけがすべてじゃない」「部活に打ち込む」「文武両道」というフレーズに甘え,勉強から逃れている生活スタイルを正当化するのです。そうするといくぶんか気分が楽になるのでますます成績が低迷します。これが,低順位に固定されてしまう心的機構です。

 しかもそこは有名一貫校です。周囲がどんどん勉強します。そんな中で勉強から逃れ続けるうちに,自己正当化は,筋金入りの段階にまで進んでしまいます。こうして,高2以上になっても全く勉強が手に着かないという確信犯的逃避状態に至ってしまうのです。

 かくして最悪の場合,高3になって偏差値20台がつくこともあります。そんな偏差値あるのかと思う方もいらっしゃるでしょうが,私は何度か見たことがあります(もちろん開成など超有名高校の人の成績が,です)。

 一方順位低下が高2ぐらいになってからなら,年齢的にみて,「反省して勉強に取り組もう」と思い立つ可能性が高まります。また,周囲がそれほど勉強しない環境のもとでは,挫折感も少なく,それほど強い自己正当化にまでは発展しないでしょう。

 それならば公立の中学に行って,普通に勉強して,「そこそこ」の成績をとっているほうが余程精神的には健康です。それに実際には,中学受験を途中であきらめた子は公立中学ではダントツの成績をとることが少なくありません(中学受験してしまって落ちた子の場合はかなり広く分布)。しかも,公立では「すべからく勉学を指向すべし」といったプレッシャーは事実上なく,「個性を大事に」「ゆとりの教育」などによって生徒はそれなりに保護されますので,余程気が楽です。

 そして,何より自分のペースで高校受験での挽回を期することができるようになるのです。

2 愁訴A 「うちの子は頭は悪くないんだけど,どうも落ち着きがない」

 子供なのでむしろこれは当然で,実はまだその子は勉強に興味を持つ発達段階に至っていないのだと考えられます。個人差はありますが,平均すると,勉強に欲を見せ始めるのは中学3年から高校2年ぐらいです。従って,高校受験勉強で知的トレーニングをこの発達著しい年代に課すというのには,一定の意義があると考えられます。いずれにしても,小学生の頃から集中力があり,難関中学受験のようなハードな勉強をばりばりこなすというのは,むしろ異常なほどの早熟に該当します。当然そういう子は少数です。「普通の子」は無理をせず,高校受験,さらには大学受験に向けて大きな計画を立てるのが最良です。

3 愁訴B 「なんかあの家庭教師の先生,やさしすぎて子供はさぼっているみたい」

 厳しい先生でもさぼるかも知れません。子供は勉強そのものを拒否しているのです。そしてその脳は,詰め込みで混乱した状態を整理するために,「ぼーっと」したがっているのです。別に反抗心があるわけではないのです。

4 愁訴C 「以前には楽々と解けていたごく易しい問題が解けなくなっている」

 ついに脳が活動を停止しました。もちろん,能力以上の負荷によりオーバーヒートするのを避けるためです。この時点で,ごく表面的な思考しかできなくなっている危険もあります。

5 愁訴D 「塾でダントツ成績悪いんですけど」

 子供は傷つくだけです。傷病兵を攻撃するようなものです。一刻も早く休ませてあげて下さい。

6 愁訴E 「最近ぼーっとしているんですけど」

 既に書いたように,将来的に影響が甚大である可能性があります。なお,ノイローゼ,脱毛症など身体的症状を伴うことも少なくありません。しかし,表面に現れなくても,精神的な疲れは察してやる必要があります。

 

 以上のように,小学生段階で無理をさせると,大きな犠牲を払うことになります。

 では,まだ「脱出」していないとして,できるだけ犠牲を少なくするために,特に小学生段階ではどのように勉強の動機付けをすればよいでしょうか。


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